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東京での和・洋・中と極上の味を求めて、いろいろ食べ歩いた記録です。


by gokujyounoazi

厲家菜(レイカサイ)

 激しい春雷があり、食事に行けるのかと心配していたが、なんとか雷だけは止んでほっとした。雨風が吹き付ける中、地図を見ても、案内板を見ても、どこから3階に上っていけば良いのかわかりにくい。やっと探し当てたのが階段で、これで3階まで上って行けというのは不親切だと思った。

 一階分を上ると、同じフロアの寿司店『鮨 すきやばし次郎』が見えたので、タクシーから降りた場所が2階だった事がわかった。初めて訪れる人には、とてもわかりにくい構造になっている。3階のフロアをぐるっと回って探すと、やっと「厲家菜」が見つかった。

 予約の名前を告げると「お待ちしておりました。」とこぢんまりした個室に案内された。テーブルを見ると、最大6人収納できる部屋のようだ。二人ではやや広く感じるが、6人だと狭いような気がした。落ち着いた色合いの調度品で、やや落とした照明。壁の飾り棚には白い陶器の壷がいくつも飾ってある。BGMはなく、シーンとしている。思わず話し声が小さくなった。

 最初は青島ビールを頼んだ。『メゾン・ド・ウメモト上海』のように青島ビールのゴールドが出てくるのかと思っていたら、普通の緑の瓶のものが、薄い上品なグラスに注がれた。箸置きは翡翠で、スプーンは銀のようだが、箸は銀ではない。紹興酒のグラスも薄く上品なグラスだ。

 前菜15品は3回に分けて供される。最初の5品は「特別な豆腐料理(豚肉と豆腐の炒め)」、「蒸し鶏の葱山椒ソース」、「牛フィレ肉の揚げ物香味ソースがけ」、「タラの網脂揚げ物」、「人参、香草、筍、すぐき菜、きゅうりの炒め」だ。豆腐は緑豆を発酵させた珍しいものを使っていたりする。この中では、牛肉の料理と魚料理が気に入った。香辛料がくど過ぎず、絶妙な味付けとなり、とても美味しい。

 それぞれが、一口二口で食べられる量であり、いろいろな種類の素材を、いろいろな料理法で仕上げているので、沢山あっても飽きることなく食べられる。私には、多種多様の料理が少量ずつ食べられる形の食事は大好きなので嬉しい。

 2度目の5品は、「蓮根はさみ揚げ」、「海老の錦糸卵揚げ」、「鶏肉と海老のすり身揚げ物」、「羊肉の焼き物」、「セロリと海老子の酢和え」だ。羊肉の焼き物が絶品だと説明されたのだが、私は蓮根のはさみ揚げとセロリの酢の物が気に入った。確かに、しっかりと下味がつけられ、手間隙がかかっているのは窺えた。鶏肉とすり身の揚げ物も手間がかかっている。セロリの酢の物は一般の人には酢がきついかもしれない。私は甘みと酸味の調和さえ取れていれば、かなり酸っぱくても大丈夫だし、そういうのが好みなので美味しくいただけた。

 最後の5品は、「翡翠のような豆腐料理」、「白菜の芥子漬け」、「北京風豚バラ肉の薫製」、「骨付き豚肉の甘酢味」、「緑豆餅の揚げ物」だ。翡翠のような・・・はずんだ餅をおかずにしたような感じだ。白菜は甘酸っぱくあり、辛子の風味が広がる。中心の柔らかい葉だけを使っているという贅沢な一品。豚バラ肉の薫製はビーツで染めてあると聞いて驚いた。骨付き豚肉はすんなりと骨が外れる程、柔らかく煮込まれている。思わずご飯が欲しくなるくらい美味しい。緑豆餅は時間が経つと段々と硬くなっていくので先に食べるように言われた。特製の醤油をつけて頂く。前菜だけで約1時間。結構お腹もいっぱいになってきている。

 次に「フカヒレの蒸し物」が供された。極太の背ビレのもので、かなり濃厚だ。黒酢が欲しかったのだが、店の趣旨が「西太后の食事」なので、そのままを頂くのが一番良いかと思われ、なかなか言い出せないでいたのだが、支配人が聞いてくれて、頼んだ。この黒酢も結構濃くせのあるタイプのようだ。料理によっては、多少アレンジを加えていたり、昔のレシピそのままに調理されていたりするようだ。

 「蒸し鮑と豚バラ肉の煮込み ご飯」が供された。これはアレンジされた丼だ。ご飯は魚沼産のこしひかりを使用しているそうで、『小室』の次に美味しいと思う白飯だ。豚バラ肉の汁がご飯にもかかっていて、丼好きにはたまらない一品だろう。とても美味しい。

 「オマール海老と筍の甘酢あんかけ」は甘過ぎで口に合わず、残念だった。
 
 「いかの卵巣と冬虫夏草のスープ」はアワビ茸も入った健康に良さそうなスープだ。冬虫夏草も当然入っている。思い切って食べたが、違和感はなかった。

 一番楽しみにしていた「三不粘(サンブータン)」は、「皿に付かず、箸に付かず、歯に付かず」という意味のデザートだ。見た目は、クレープ生地を厚めにして、焦げ目を付けずに焼いたホットケーキのようなもので、色がとても鮮やかな黄色だ。このデザートは、高貴な色であるため紫禁城内でしか食べることができなかったそうだ。

 切り分けられると、確かに皿には付いていない。ナイフにも付いていない。しかし、箸で千切ると、箸にくっついてきた。おそらく銀の箸であるならば、付かないのだろう。味は『と村』で食べた「葛焼き」に似ている。葛っぽい柔らかい食感があり、卵と砂糖の甘みが口に広がる。

 「北京風ヨーグルト」は発酵させたものではなく、オーブンで焼いて作るそうだ。確かに食べたことのない味だ。柔らかく酸味がある。固まり方は、杏仁豆腐より緩いプディングに近い感じがする。

 ここはサービスのお茶もないようだ。ジャスミン茶を頼んだのだが、ポットが二千円でしっかり請求されていた。確かに渋みも雑味もなく、すっきりした良いお茶だったから、仕方ないか。

 支配人も給仕人もわりとお話をするようだ。いろいろと料理法など質問してくださいと言われた。この日の客は二組だったので、まめに部屋にサービスしに来てもらえたようだった。最初、あまりに静か過ぎて気になっていたのも、食事が進むにつれて、気にならなくなってきていた。

 お勘定を済ませようと声を掛けようとした時には、見つからず、部屋から出ると、どこがどこだかわからなくなり、思わず扉を開こうとしたら鍵が掛かっているので驚いた。予約客がすべて来店したら閉めてしまうようだ。帰りの際に鍵が開かれた。タクシー乗り場を聞くとエレベーターまで案内してくれた。 エレベーターは別の場所にあったのだ。そこは一階が道路に面していた。不思議な造りの建物だ。
                                                 KEI
by gokujyounoazi | 2006-05-07 11:25 | 中華